秋の静寂(しじま)を 騒がすものは
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


M区の郊外、それは閑静な住宅街の丘の上に、
戦前からという由緒正しい歴史持つ、結構有名な女学園があり。
ミッション系のそこへは、
旧家・名家や要人の子女も多数、卒業生に名を連ねていて、
現在も政財界に名のあるお家の令嬢がたんと通っている関係から、
こういうことに詳しい筋からは、
名前だけで“ああ、あの”と感嘆つきの関心招くよな有名校で。
財政的な面でも結構なもの、
学校法人として 経済に影響を波及させてまではいないが、
それでも卒業生や後援会のかたがたが、
寄付や寄贈として贈ってくださった基金で奨学制度を設けているし、
価値ある美術品だの工芸品だのも多数 所持し、
それだけを展示してちょっとした展覧会が開けるほど。

 「…ってことを、しっかと下調べしてあったということは。
  昨日今日思いついて動いてる、
  半端な窃盗団じゃあないってことだよねぇ。」

薄暗がりの中、
時折 思わぬ角度からブンッと風を切って飛んでくる気配があって。
そっちの方向の肌をちりりと焼くような、
はたまた産毛が全部 総毛立つよな、
そんな物騒な鋭利な何か、
もしかして殺気のようなものを帯びた、凶悪な風は、

 「ぐあっ!」
 「ぎゃあっ!」

十人以上という結構な頭数で、
ガードマンが詰めていようが、頑丈な壁が阻もうが、
ざっと押し込み、さっと引き上げる、
そんな手際のよさでも売っていたこの一味を
初めて震え上がらせており。

 「何だ何だ、何がいるんだ。」
 「警備は薄いって聞いてたぞ?」

そろそろフリースが恋しくなる寒さも何のその、
作業着姿で運送屋に扮し、無造作に侵入して来た輩たちを、
彼らの都合に合わせて灯された電灯、まずはパパッと落としてから、
どこからともなく襲い掛かる鋭い打撃の雨あられが、
屈強そうな男衆を、次から次へと叩きのめしているのであり。

 「うっ!」
 「…ってーっ!」

それで致命傷になろうというよな重々しい打撃じゃあない。
少なくとも明るい中で受けたなら、
不意打ちへ驚きはしても、何だなんだと慌てるだけかも。
効率的といや効率的なそれは、だが、
やろうと思えば急所を確実に狙って、速攻で仕留めも出来る手練れたちが、
故意に手加減して差し上げて、
浮足立つよう“撹乱”のほうを優先しているだけのこと。

 “やり過ぎで過剰防衛扱いされて、
  執拗に犯人捜しをされたりしても剣呑だしね。”

いや、たとえ警備の一端であれ、
一応は傷害扱いにされてのこと、捜査はされると思いますが。

 「ここを直接警備していた事務所には、
  学園祭へ使うので持ち出すんだって通達を出したんだろうが。」

 「ああ、…って、へぶぉっ!!」

それは長い竿でぺっしーんっと、肩の付け根を叩かれ、
ぐるりんとその場で180度回った男が、
正面からも不意打ちを受け、
その衝撃で恐怖心をも叩かれて、それはあっさり昏倒してしまう。

 “何なんだよ、こりゃあ。”

表向き、さほど有名ではない秘蔵品ばかりを所蔵している、
女学園専用の保管庫は、
だがだが、だからこそ
近年注目されつつある新進気鋭の作家の、
彫像だの絵画だのも保有している事実もまた、
世間一般からは秘されており。
一部の好事家たちには垂涎の、初期の作品群、
金ならいくら積んでもいいからほしいと言ってるような、
絶品無垢なお宝が、そんな価値さえ知られぬままに埋まっているとか。
そんな穴場だと嗅ぎ付けた一味が、
それなりのお膳立てを敷き、特攻して来たらしいのだけれど、

 「と、とにかく、
  何でもいいから金目のものを掴んで逃げろっ!」

せめての傷跡でも残したいか、
それとも、せめて支度に費やした元手くらいは取り戻したいのか。
当初の計画とやらはどこへやら、
それを嗅ぎ付けられていてのこの始末と
悟った幹部の誰かが そうと怒鳴る。
こういう時の切り替えもまた、素晴らしく素早い手合いであるらしく、
おうと応じた、まだ意識のある面々が、
壁沿いの棚を適当にまさぐり、
あたるを幸い、文字通りの手当たり次第、
小さいものでも価値はあろうと、引っ掴んで駆け出すのが幾人か。

 「あ、そっち逃げたよ。」
 「……。(頷)」

こちらは暗視カメラ内蔵のゴーグルを装備した、
もうお判りですねの、秘密特殊戦隊、三華様がた。
学校指定の紺色ジャージの上下をまとい、
身の丈と同じほど長いステンレスの棹を それは軽快にぶん回し、
風籟のうなりも鋭く振るうと、賊を片っ端から薙ぎ払ってゆく麗しの女傑。
色白の肌によく映える、さらさらの金髪を引っつめにし、
すくりと立つ姿も凛々しい白百合さんこと七郎次さんなら、

 「はがっ!」

後方から追った格好の手合いを あっと言う間に追い詰めて、
ぶんと振り抜いた腕の先、
しゃこんと伸ばした特殊警棒にて背中への一閃をお見舞いする、
自在に、鋭利に、宙を舞う姿もそれは優美な紅胡蝶。
激痛と不意打ちというコンボにて、その場へ人事不省にして倒れさす。
素晴らしいまでのバネを生かした軽快な身ごなしで、
気配さえ後から追ってくるよな素早さ生かし。
これでも結構気を遣った攻勢で、全員を搦め捕るのが目標と、
白い両手に握った特殊警棒、ぶんぶんと振り下ろしては、
自分よりも上背のあろう連中相手に、
張り切っておいでの寡黙なお嬢さんのほうは、
エアリィな金髪も華麗な、紅ばらさんこと久蔵さんで。

 「……ちっ。」

こちらは周囲を見回せるからこそ、
取りこぼしだけはと用心し、回り込んでは1人ずつ蹴倒していたのだが、

 「…米。」

ゴーグルに装備されていたインカムマイクへ、
ぼそりと呟いた久蔵へ、

 【 オーライ、お任せを。】

此処には居ない最後のお一人が、電波越しにて余裕のお返事。
大丈夫かなと、眉を寄せた寡黙なお嬢さんだが、

 「久蔵殿、
  ヘイさんも秘密兵器持ちで結構頼もしいんだ、任せよう。」

こちらは後始末へと頭が切り替わっておいでらしい、
捕縛用のナイロンザイルを
腰回りへ装備していたリールからぐんぐんと引き出しつつ、
白百合さんが そんなお声を掛けており。

 「…。(頷)」

駆け出しかけて、足元に伸びてる輩に気がつき。
自分も同じように腰から端っこが出ていたザイルを よいせよいせと引き出すと、
案外と器用に、二重の蝶々結びで手足を縛り上げ、
華やかな進物用に仕上げて差し上げたりしたのであった。

 “う〜ん、さすがはホテルJの跡取り娘だ。”

シチさん、それは関係ない。(笑)




     ◇◇


何しろ視界が悪すぎて、
そんなまま恐慌状態のまま駆けているものだから。
ところどころで壁へまともにぶち当たりの、
たたらを踏んで転びかけのしつつ、
それでもそこは必死の行動。
加えて、窃盗団の一員として
逃げ足の速さも磨かれたクチだったようで。
何度も何度もこけつまろびつしつつ、
それでも諦めることなく、出口目指して駆け続けた手合いが一人。
その手には、ややいびつな形をした横長の、
文鎮みたいな金物を握っていて。
せめてこれをアジトへ持ち帰り、皆の帰りを待とうと決めた。
今回は訳の分からぬ仕掛けに翻弄されたが、
なに、ボスは手練れだ、きっと逃げてくるだろうし、
これを元手に巻き返せばいいと。
一途なくらいに懸命に、駆けて駆けていたけれど。

 「えっと、ここをこうして、と。」

銃身の長いライフルを抱え、
微妙にもたつきつつ装備を充填中の少女が一人。
銃身の脇に突き出たチェンバーレバーを、
ぐいぃとグリップ側の手前に引いて押し込めば。
がちゃりと重々しい音がして、

 「フォアアームタイプの方が、
  見た目も可愛いし扱いやすいんですのにね。」

何かの楽器みたいな、チューブタイプのバレルのレバー、
弾丸を充填するためのスライドアクションが何とも可愛いけれど、

 「まあ、贅沢は言ってられないってね。」

重々しい銃をじゃきりと構え、
殺風景な路地裏に灰色の壁をそびえさせ、
そこを切り取られて据えられた鉄の扉へ照準を合わせると。
アッと思い出したよな顔になり、
おでこへ上げてたゴーグルを、
幼いお顔の目許へ降ろしたのがひなげしさんこと平八さんで。
やや小柄なお嬢さんには不釣り合いな武装、
それでも手慣れた様子で、座り込んでた膝の前のスタンドへ据えると、
スコープを覗いて鉄の扉、出口を見据える。
ややあって、

 「…っ。」

ぎいと軋む音が聞こえ、重々しい鋲の打たれた両開きの扉が片側だけ、
恐る恐ると開いてゆくのへ。
トリガーへと掛けた手を引き絞り、
後は間合いだと、ただただ意識を静める彼女で。

 “まさか、こういう策を構えることになろうとはね。”

照準器の十字の中、
向こうもこっちへ気づいたか、ハッとしたお顔が痛々しかったが、

 「力づくみたいで、あんまり好きじゃあないんですが、
  こっちの手勢に限りがあるんじゃしょうがない。」

諦めてくださいねと、引かれた引き金。
途端に、ばたら・ばたたたた…と、
耳を弄する轟音が当たりを塗り潰すように轟き、
小柄な少女の手元から逃げ出したいかのように、
実はマシンガン仕様だったライフルが躍る。

 「…っ、ど、どっひゃあ〜〜〜〜っっ!!!!!」

どちらかといや、まだ二十代でこぼこという若いのだ、
他のメンツは知らないが、この彼はまだ、
実際に銃での命のやり取りまでは経験がないようで。

 “あってたまるか、平和な日本でっ。”

身が凍るような恐怖の中、
それでもぎゃあぎゃあと悲鳴を上げつつ、
体がホントに凍るのを避けて避けて。
まだ何とか無事なうち、その場から何とか離れたいらしい彼の鼻先へ、

  ふわん、と

何かが触れて、かささという音もしだしたのへ、

 「ぎゃああっっ!」

一際大声で叫んだが、視野を覆ったのは様々な色合い。
わわわ・わあわあわあっと、この世の終わりのように叫んだものの、
いよいよ終わりだと 地べたへへたり込んだ彼へと降りそそいだのは、
物騒な銃弾の雨、なんてなものではなくて。

 「……あ?」

いつの間にやら激しい轟音も消えていて、
どこも痛くはないのへ、ようやく気がつき、
顔に触れたは、妙に柔らかい不織布の、小さな小さな…パラシュート。


  「……………………は、はい?」


自分へと向いてた大型銃に、凄まじい轟音と来て、
てっきり撃たれると早とちりしたが、
自分へと降りそそいだのは、山のような数の小さめのパラシュートばかり。

 「これって…。」

自分を見回し、続いて向かいの壁を見やって、
そこに脚立を出して座ってた、小柄な狙撃手を も一度見やれば、

 「さあ帰りましょうかねぇ。」

よいしょと降り立ち、
肩から提げてたゴルフバッグを揺すり上げて見せたので、
さっきの銃は恐らくそこに収めたらしく。

 「…っ。、てンめえぇ〜〜〜っっ!!」

大人に恥かかせてんじゃねぇと。
ああまで本気で恐怖したのが、今度は恥ずかしくなったのか、
それとも凹んでいたのが妙な反動ついて盛り返したか。
掴みかかってやろうと踏み出したが、

 「あえ?」

その足が地面に張り付いてて動かない。
動きやすいようにというブーツ履きだったのだが、
その靴底が、思い切り全面地べたへ張り付いていて、
無理から浮かせようとすれば、
前のめりになった膝から上だけがつんのめり、
その場へ ばたりと倒れるしかない状況。

 「無理して動けば怪我をしますわよ?」

それも、関節を傷めるとか長引く怪我をと、
気の毒そうに言う声がして。
え?と顔を上げた拍子、ついついバランスを崩しかかったため、
わわっと慌てて手を開けば、
そこから落とされた文鎮もどきを、可愛らしい手がナイスキャッチしていて。

 「純金の観音様の像なんて、あんまり趣味はよろしくありませんが。」

でもでも、何かあったおりの資金になさってと寄贈された品ですから、
こちらへ返していただきますねと、それはしっかり告げてから。
ふふと微笑ったお顔の、何とも言えず微妙に怖かったことったら。

 「〜〜〜っ!」

可愛らしいお顔を柔らかくほころばせ、
金茶色の双眸をくっきり見開き、それは愛らしく笑ったはずが、

 “何だ何だ、今のって…。”

どうして背条が凍ったのか、初見じゃ判るはずもなく。(笑)
そんな彼女が、その猫のような目許を細め、
今度はふんわり微笑って手を振り、

 「シチさん、久蔵殿、こちらの首尾は良しですよ。」

ああ、足元に気をつけて、
ボンド爆弾つきの落下傘を降らせましたからと注意を授けて。
半開きのままだった鉄の扉から出て来た、
同じようなトレーニングウェア姿のお嬢様たちと合流する彼女であり。

 「勘兵衛さんには連絡したんですか?」
 「う…ん、微妙に管轄は違うんですけどね。」
 「なので佐伯に。」

佐伯刑事の方へ連絡したので、
島田よりは手際よくよしなに采配してくれると思うぞ、と。

 「あら、珍しく私にもあっさり通じました。」
 「…、…。(さもありなん)」
 「こらこら、あなたがた。」

勘兵衛様をそんな風に言わないでくださいなと、
ちょっとちょっとと手を振るお嬢様へ、あとの二人がキャハハvvと笑み崩れ、
そのまま、何事もなかった待ち合わせのよに立ち去って。


 それから1時間もしないうち、
 ここいらを管轄とする署の警官たちが大挙してやって来て。
 某女学園の保管庫を急襲した賊らが
 何故だか既に捕縛されていたのを発見し、
 検挙して去ったという話で。
 謎の警備に翻弄され、あっと言う間に捕縛されたが、
 あれは過剰防衛なんじゃないのかと、
 抗議の声も上がったものの、
 どの顔触れも診察したところ大した怪我は負うてもおらず、
 本気では取り合われなかったとか。


  相変わらずなようですよ、お嬢様がたったら。






    〜Fine〜  14.10.15.


  *お元気満開、この様子だと体育祭も大活躍したのでしょう、
   一部の保護者にすれば、それは困った存在の 女傑三人衆。
   ますますとハイスペックになってくようで、
   怪我をするリスクも増すのに、何てことと。
   ますますのこと頭痛の種が増えてそうです、はい。

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